『歴史本の記載方法についてーー中国の書店で感じたこと』

 中国の大型書店に行くと、さすが歴史の国だけあり、中国歴史に関する書籍が豊富にあり、歴史好きでなくても、書物をあれこれ手に取ってパラパラとめくるだけでも1,2時間はあっという間に過ぎてしまいます。
 さて、その歴史本ですが、「特定の時代の特定の事象や歴史の裏側、歴史の雑学などを解釈、説明したもの」がかなり多く見受けられるようです。もっとも雑学と言ってもその知識を得ればためになる前向きのものが多く、総じて良質な出版物が多いように見受けられます。
 もちろん、わが国でも、三国志ものなど商業的に手堅い売れ行きが見込める出版物がより多く発刊され書店に平積みされるという傾向はあるかもしれませんが、中国の場合、必ずしも単に売れ行きが見込めるから、そのような個別の歴史事情や背景説明を内容とした刊行物が多いという訳ではないように思います。

 日本の学校では、通常、縄文弥生の頃から現在に至るまで基本的には古い時代から新しい時代にかけて時系列的に歴史を学ぶという方法が採られ、基本となる教科書も時系列に記載されています。教科書では、個別の事象の真相や背景などにはあまり深入りしません。
 中国の書店では、時系列的に歴史を解説している書物は(通史や編年体)はもちろん販売されていますが、書店では、大百科事典のようなセット本でさえ、それほど自己主張する訳でもなく、むしろひっそりと本棚に置かれているような気がしてなりません。

 中国のような歴史を有する国で、歴史を記載する場合、どこから着手し、どのように整理して記載するか当初の歴史作家はさぞ悩み考え抜いたことでしょう。しかし、現在、書店での各種歴史本の記載範囲や書籍名を見ると、長い歴史のなかで確立された伝統的な歴史の記載方法が、結局は現在の歴史本の書き方に、大きな影響を与えているのではないかと思われ、中国歴史の記載方法等につき念のため、以下整理してみました。

1、中国正史とは
朝廷が認可し採用した歴史書や朝廷が自ら著作した歴史書、つまり国家公認の歴史書であり、正確な歴史書の意味ではない。正史は24あるので二十四史。正史の一番目は史記、二番目は漢書、明史が二十四史の最後。
2、中国正史の書き方
すべて紀伝体。皇帝の記録である本と皇帝以外の人の記録である列を二本柱とする。但しこれでは歴史の事柄に関することが抜け落ちるので「志」と称する事柄についての記録を付けるならわし。
3、通史その他
通史とは王朝や時代の区切りを越えて長期間を扱った歴史書で正史では史記のみ。断代史とは叙述の期間をある王朝に限ったもの。史記を除く正史はすべて断代史。編年体とは、歴史の流れを区切り主要な出来事を書き込むスタイル。紀事本末体とは主題をたて、それだけをはじめからしまいまで書く方法。中国での編年体通史形式の代表作は北宋時代に書かれた資治通鑑。

 通史は古代から現代まで長期間の歴史期間を対象とすることになるので分量は膨大になります。
 そこで、上記の伝統的な記載方法で比較的容易に歴史本を作成するなら、断代史のなかの紀事本末体または列伝形式にヒントを得て記述すれば歴史の断片を掘り下げた興味深い歴史本になる、だからそのような傾向の歴史本がたくさん売られている、ということになるのかもしれません。
 しかし、もっと興味深く理解するためには、歴史の全体感について事前にざっとおさらいし、こまめに頻繁に確認することが必要になるので、中国歴史の勉強と理解は結構大変な作業です。 

(藤野 記)