中国語における外来語について

中国の日本語学習者は、外来語が多いことに戸惑うことがよくある。日本語の語彙は漢語、和語、外来語、混種語の四種類から構成され、そのうち、外来語は10%前後を占め、割合から見れば漢語や和語ほど多くはないが、そのルーツが多岐にわたり、そして意味も必ずしも原語と一致しないものもあるため、それを習得し覚えるのはなかなか難しい。

では、中国語における外来語にはどのようなものがあるだろうか。
中国では外国から入ってきた物事に対し、すべてに「洋」という文字をつけて呼んでいた時期がある。例えば、「洋油」(yáng yóu、石油、灯油)、「洋火」(yáng huǒ、マッチ)、「洋布」(yáng bù、機械で織られた布)、「洋车」(yáng chē、人力車、自転車)、「洋房」(yáng fáng、洋風の建物)、「洋文」(yáng wén、外国語)、「洋节」(yáng jié、外国のお祭り)、「洋酒」(yáng jiǔ、西洋のお酒)などある。このほかの例では外国人のことを「洋人」(yáng rén)、海を渡って留学することを「留洋」(liúyáng )と言った。これは「洋」に「渡来、舶来」といった意味が含まれているためである。
しかし、これだけでは、外国から入ってきた全ての物事を言い表すことは無理だった。
外国の言葉をそのまま取り入れたケースもある。その方法は「ただ音訳したもの」と「音訳に類名を加えたもの」の二つに大別される。

一つ目は「ただ音訳したもの」で、そのまま漢字にあてたものである。例えば、「咖啡」(kāfēi、コーヒー)、「沙发」(shāfā、ソファー)、「可口可乐」(kěkǒu kělè、コカ・コーラ)、「幽默」(yōumò、ユーモア)、「巧克力」(qiǎokèlì、チョコレート)、「拷贝」(kǎobèi、コピー)、「麦克风」(màikèfēng、マイクロホン)、「曲奇」(qǔqí、クッキー)、「纳米」(nàmǐ、ナノメートル)、「吉他」(jítā、ギター)、「尼龙」(ní lóng、ナイロン) 、「逻辑」(luójí、ロジック)、「高尔夫」(gāo’ěrfū、ゴルフ)、「威士忌」(wēi shì jì、ウィスキー)、「沙拉」(shā lā、サラダ)、「引擎」(yǐn qíng、エンジン)、「马达」(mǎ dá、モーター)、「卡通」(kǎ tōng、cartoon、漫画)、「模特」(mó tè、モデル)、「维他命」(wéi tā mìng、ビタミン)、「三明治」(sān míng zhì、サンドイッチ)、「马拉松」(mǎ lā sōng、マラソン)、「托福」(tuō fú、TOEFL、トーフル試験)、「雷达」(léi dá、レーダー)、「巴士」(bā shì、バス)といったものが挙げられる。
最近では「秀」(xiù、show、何かを見せること、展示すること)、「酷」(kù、cool、クール、かっこいい)などの言い方が、若者を中心に流行っている。
「可口可乐」は本当に素晴らし訳だと思われる。それはただの音だけでなく、当てられた漢字は「口に合い、楽しめる」という意味にも読み取れ、まさに消費意欲をそそれるプラス志向の訳語である。外国の人名や地名はほとんどこの方法で音訳されている。
一方、「梵婀玲 」(fàn’ēlíng、バイオリン)、「水门汀」(shuǐ mén tīng、セメント)のように、一時期に使われたものの、後に意訳されたものに言い換えられたものもある。「梵婀玲 」は「小提琴」(xiǎo tí qín、バイオリン)、「水门汀」は「水泥」(shuǐ ní、セメント)によってそれぞれ取って変わられ、「维他命」も「维生素wéi shēng sù」になっている。

二つ目は「音訳に類名を加えたもの」である。原語を音訳して、さらに意味を示す中国語をその後に付け加えたもの。中国語はもともと表意言語だから、この類の外来語は非常にわかりやすい。例えば、「啤酒」(píjiǔ、ビール)のように、「啤」は「beer」の発音を示す漢字で、その後に類名を表す「酒」という漢字を付け加え、物事の所属や種類を分かりやすくしている。他に、「芭蕾舞」(bālěi wǔ、バレー)、「沙丁鱼(shādīng yú、サーディン、いわし)、「三文鱼」(sānwén yú、サーモン)、「摩托车」(mótuō chē、オートーバイ)、「卡片」(kǎ piàn、カード)、「迷你裙」(mínǐ qún、ミニスカート)、「保龄球」(bǎolíng qiú、ボーリング)、「因特网」(yīntèwǎng、インターネット)といった類である。それぞれ前の文字はもともとの言語の発音で、最後の一文字はその所属する分類を表している。
「星巴克」(xīngbākè、スターバックス)のように意味と音が混ざった外来語もあるが、数は多くはない。因みに、1999年に中国市場に進出して以来、「星巴克」は現在中国の200の都市で4800店舗を張り巡らし、ビジネスで大きな成功を収めたのみならず、中国における「咖啡文化kāfēi wénhuà」の普及にも大いに寄与してきたと言えよう。

中国語の外来語を論ずるには、日本語からの借用を見落としてはならない。特に20世紀の初頭前後には日本では漢字を用いて西洋の物事を翻訳した新しい言葉がそのまま中国語としても使われるようになったものが沢山ある。
例えば、「経済、社会、政党、政策、政府、法律、幹部、出版、法人、蛋白質、不動産、場合、取消、抽象、積極、直接、間接、古典、現代、自然、物質、宗教、代数、物理、化学、生物、表情」といったようなもので、人文社会分野の専門用語の半分以上は日本語からの借用だとまで言われている。翻訳語だけでなく、「倶楽部」(クラブ)、「浪漫」(ロマン)のように、日本で音訳された語もそのまま借りてきた用例がある。ある統計によれば現代中国語には、日本語から借りた語彙は3000語にものぼるという。それらはある程度中国語の空白や不足を補うのに役立ったと言えよう。

日本で西洋の物事や制度を翻訳された際、もともと古典中国語にあった言葉に新しい意味を付与したものもある。例えば、「思想、経済、憲法、共和、法律、封建、社会」などの類で、これらは「新しい言葉」として中国に「逆輸入」されることとなった。
また、「徹底的」、「科学化」、「文学界」、「必然性」、「問答式」、「合格率」、「人生観」、「弁証法」、「生産力」、「関節炎」のように、「~的」、「~化」、「~界」、「~性」、「~式」、「~率」、「~観」、「~法」、「~力」、「~炎」のような構成をなす複合語はほとんど日本語からの借用であり、あるいはその作り方に倣って造語されたと指摘されている。

1980年代に入ると、新たに日本からたくさんの語彙が入ってきた。例えば、「新干线」(xīn gàn xiàn、新幹線)、「量贩」(liàng fàn、量販、「达人」(dá rén、達人)、「熟女」(shú nǚ、熟女)、「写真」(xiě zhēn、写真)、「物语」(wù yǔ、物語)、「过劳死」(guò láo sǐ、過労死)、「营业中」(yíng yè zhōng、営業中)、「乘用车」(chéng yòng chē、乗用車)、「刺身」(cì shēn、刺し身)、「花嫁」(huā jià、花嫁)、「人气」(rénqì、人気)、「二次元」(èrcìyuán、二次元)、「中二病」(zhōng’èrbìng、中二病)、「居酒屋」(jūjiǔ wū、居酒屋)、「绘本」(huì běn、絵本)、「~系」(xì、~系)、「~族」(zú、~族)、卡哇伊(kǎwayī、可愛い)といったような日本語が入ってきており、 うまくあてはまる漢字があればそのまま用いられ、そうでなければ音訳されている。

こうした借用語には、目新しさを追い求める使用する人々の思惑が感じられる。また、すべての地域や年齢層に広まらず、一部の地域や業界でしか通用しないというものもある。
このように様々な形を通じて中日間の言語交流はこれからもますます盛んになっていくものと考える。

福山大学孔子学院
前副学院長
郭德玉 記